研究プロジェクトの進捗状況・研究成果等
各部門における進捗状況と達成度、成果評価

画像解析部門
<スケジュールに照らした各年度ごとの進捗状況及び達成度>
・1年目(達成度90%以上)
 脳循環動態評価法の確立を目指した。MRIによる非侵襲的手法と核医学的手法との精度を比較した。感度・特異度ともに85%以上であった。
 3T MRIを用いた神経メラニンイメージング手法を開発した。
 青斑核、黒質緻密部の描出に初めて成功し、Parkinson病における病理学的変化、うつ病における機能変化の可視化に着手した。
 65歳以上で統合失調症様症状を初発する最晩発性統合失調症様精神病の脳画像研究に着手し、当該症例の精神症候と脳画像を調べた。
 最晩発性統合失調症様精神病の症例数を増やし、MRIの撮像を進め、精神症候の横断的かつ縦断的評価を行なうと共に血管障害因子に関する検索を進めた。
 磁気共鳴法(MRS)を用いた生理的条件下での脳内温度分布や温度変化の計測に向けて、新規受信コイルを利用し、信号取得方法の検討とともに、温度精度等を評価した。新規受信コイルでは、特定の領域に限定はされるが、感度は3~4倍となり、温度計測の精度が向上した。
 MRSにより、脳内でのGlnとGluとの分離が可能となり、肝硬変で増加しているのはGlnであることが明らかとなった。
 PETを使った研究で、肝硬変でのGABA-BZ受容体結合能は亢進しており、血液アンモニア濃度と相関することから、GABA-BZ受容体結合能は血液アンモニア濃度によって変化することが明らかとなった。さらに新しく開発したコンピュータによる定量的精神神経機能検査により肝硬変の40〜60%の症例が潜在性肝性脳症である可能性が示された。
 超小型電磁弁を組み込んだマニホールドタイプの[18F]臭化フルオロメチル([18F]FMeBr)合成モジュールおよび小型赤外線ヒーターを用いた加熱反応ユニットを製作し、[18F]FCHの合成を行った。
・2年目(達成度90%以上)
 3T MRIを用いた高解像度3次元磁化率強調画像とT2*定量画像を開発した。
 多発性硬化症における脱随斑の多様性や正常様白質・灰白質内の病変の可視化に成功した。
 血行力学的脳虚血における循環予備能、酸素代謝予備能の低下を無侵襲に描出できた。
 軽度認知症でも、帯状回前方部と海馬領域に異常が認められた。
 超高磁場MRI装置による大脳皮質機能評価法を確立した。fMRIによる大脳皮質機能マッピングにおいて、簡便かつ臨床応用可能な手法を開発した。従来の脳科学的応用のみならず脳血管障害修復過程での脳機能マッピングが可能となった。
 感情障害(抑うつ状態)9例の神経メラニン画像の検討を行い、青班核コントラスト比は健常対照群のそれと比較して低下を示すという所見を得た。
 MRS用に新規コイルを追加し、より高精度化を目指した。6秒の時間分解能で標準偏差は0.13℃となり、時間分解能1分で標準偏差を0.03℃まで、測定精度を向上させることができた。
 脳内pHや高エネルギーリン酸化合物の計測のため、新たに31P原子核の磁気共鳴信号の計測ができるようにした。
 肝硬変での脳内ドパミン結合能は3DSRTを用いた解析では、すべての領域で、健常者に比較して低下しており、血液生化学検査との関連では、総ビリルビン濃度やプロトロンビン時間と相関していることが明らかとなった。
 [18F]FCHの自動合成装置を完成し、合成収率を上げた。
・3年目(現在まで)(達成度90%以上)
 脳循環動態評価法を完全非侵襲化する手法に取り組んだ。
 3T MRIを用いた容積拡散イメージング手法を開発した。
 拡散強調画像・テンソル画像の画像歪みやアーティファクト、部分容積効果を排除することで著明な画質向上が得られ、内側側頭葉小構造の拡散異方性変化の検出に成功した。
 神経メラニン画像研究では、感情障害の症例数を増やし画像所見が診断に寄与する可能性が示唆された。
 最晩発性統合失調症様精神病21例と、健常対照21例のケースコントロール研究を行ったところ、疾病群に前頭側頭葉領域の萎縮と大脳白質のラクナ梗塞を有意に多く認めた。
 MRSによって単一領域ではあるが、安静時や運動負荷時の脳内温度変化が評価できるようになった。
 単一領域での温度計測の高空間・高時間分解能化を目指すとともに、温度計測の2次元・3次元化へ向けた測定手技・解析ソフトの改良を行ってきた。
 肝硬変でのGABA-BZ受容体結合能と脳内のneurosteroidとの関連についてMontreal大学と共同研究に入った。肝硬変での脳内ドパミン濃度に関する解析では、症例数を増加し、すべての領域で健常者に比較して低下しており、ことにsubcorticalな領域でも肝硬変の早期から低下していることが詳細に明らかとなってきている。
 [18F]FCH合成の再現性を高めるとともに、他の18F-標識薬剤の製造に対しても高い適応性を有していることを確認した。

<特に優れている点>
 独自のイメージング手法を用い、従来描出が不可能であった神経伝達物質、脳血流・酸素代謝、拡散異方性の変化の可視化に成功した。これをもとに、各種臨床症例での応用検討がすみやかにスタートした。
 MRSにより非侵襲的に生理的条件下での脳内温度変化(安静時・運動負荷時)を評価できるようになった。
 潜在性肝性脳症の診断に定量的精神神経機能検査を開発し、剖検脳でしか確かめられていなかった肝硬変時の脳内物質代謝異常を、in situで検討できた。
 超小型化した[18F]FCH合成システムの完全自動化が達成できた。
 ポスドクの参加により画像描出・評価法に工学的手法が可能となった。

<問題点とその克服方法>
 血管障害の発症前診断および修復過程の解明には数年の経過観察が必要である。→現在3年目までの成果を応用し、厳重に経過観察を行っている。これまで少数例ではあるがすでに有意な所見が得られている。最終年度までには統計解析が可能となる。
 神経メラニン画像は3次元撮像が不可能であり、微小な神経核の描出には不十分であった。→3次元撮像手法の開発に成功し、中脳腹側被蓋野のドパミン細胞の可視化が可能となった。
 重度の抑うつや幻覚・妄想などの精神症状を認め、病識欠如している症例の撮像は困難であり、急性期を脱し静穏化した時期に撮像せざるをえないことが多い。

<研究成果の副次的効果(実用化や特許の申請など研究成果の活用の見通しを含む)>
 画像改善技法はMRIメーカーの正式な撮像法として市販装置に実装される予定である。
 精神症候と撮像結果との関係を分析することによって、生物学的根拠を持つ病型診断の開発が期待される。

<今後の研究方針>
 脳血流・神経細胞・神経線維を客観的・定量的に評価する手法を臨床症例に応用し、経時的に評価することにより、発症前診断法を開発し、また神経修復過程を解明する。
 3次元神経メラニンイメージングを用い、高齢者の鬱状態などにおけるドパミン、ノルアドレナリンの動態変化を解析し、病態評価をおこなう。
 容積拡散テンソル画像を用い、軽度認知障害(MCI)のAlzheimer病移行例の発症前診断を試みる。
 磁化率イメージングを用い、慢性脳虚血の無侵襲重症度評価法の確立をめざす。
 臨床症候学、画像診断学、分子遺伝学的手法を加えた統合的生物学的精神医学の展開を計画している。
 MRSによる温度計測の多次元化、時間・空間分解能の向上を行う。
 肝硬変での脳内ドパミン結合能やGABA-BZ受容体結合能の変化と臨床的な意義付けについて検討する。
 合成原料となるジメチルアミノエタノールは、腫瘍のコリン取り込みの過程で競合することから、[18F]FCH注射剤に混入する原料の量をLC/MSで測定し、最適な精製条件を探る。また、国内初となる[18F]FCHのPET臨床応用を開始する。

<今後、期待される研究成果>
 脳血管性障害発症リスクが高いと判断された症例に対する外科的・内科的治療の有効性判断が客観的に可能となる。
 神経メラニンイメージングは神経伝達物質の機能形態イメージング手法として有望である。
 磁化率イメージングは従来の脳循環検査に変わる新しい脳機能イメージング手法となる可能性がある。
 容積拡散イメージングは、痴呆などの発症前診断・早期診断に威力を発揮すると予想される。
 強迫性障害など、臨床画像研究の対象を他の精神障害に拡大することで、さらなる臨床的有用性を追求できる。
 MRSを使って、脳活動に伴った温度変化を評価できるようになると期待される。空間的・時間的な分解能と測定精度の向上が達成できれば、温度による脳活動を評価できると思われる。
 肝性脳症の早期の対策が可能になる。
血管研究部門
<スケジュールに照らした各年度ごとの進捗状況及び達成度>
・1年目(達成度80~90%)
 張力測定実験に使うウシ脳血管が入手困難な状況になったことにより、ラット脳血管でおこなう実験系に変更した。
 二光子顕微鏡システムを立ち上げ、トランスジェニックゼブラフィッシュ(Tg(fli1:EGFP)y1)の生体イメージングをはじめた。これを用いて、脳底動脈と椎骨動脈の連結は偶発的に進行するのではなく、遺伝子プログラミングがなされていると思われる過程をとらえることができた。
 ブラフィッシュ遺伝子発現解析用DNAチップを用いて、胚の3500遺伝子の発現解析を行い、脳底動脈と椎骨動脈の連結を制御する遺伝子候補として転写因子遺伝子14個を選定した。
 低血圧系である肺動脈の中膜を形成する弾性線維、平滑筋線維、膠原線維の変化を組織定量学的に検討した。
 EBV感染NK/T細胞での接着因子発現と、血管内皮細胞での接着因子発現誘導に関わるサイトカイン発現について検討した。
 骨髄幹細胞の分離方法を確立し、各種培養条件の検討により、肝細胞への分化誘導法を確立した。また、骨髄幹細胞由来の線維芽細胞は、気道の線維化に関与することもわかった。さらに骨髄間葉系幹細胞からの軟骨・骨・脂肪細胞の分化誘導に成功した。
・2年目(達成度80~90%)
 ラット中大脳動脈で収縮実験を行うシステムでは、測定上種々の問題点があることが判明し、中止状態にせざるを得なかった。
 カルシウムバイオイメージング法により、ラット脳の細動脈平滑筋の収縮特性を検討したところ、プロテアーゼやセロトニンに対する反応性は血管径に依存していることがわかった。
 ゼブラフィッシュ胚のwhole mount in situ hybridizationに成功した。
 二光子顕微鏡で、従来疑われていたゼブラフィッシュのリンパ管の存在を明らかにするとともに、発生過程を捉えることに成功した。さらに、リンパ管網形成(胸管系)と体壁の静脈網形成の由来となる脈管芽細胞「pioneer cell」の存在を明らかにした。
 ゼブラフィッシュ遺伝子発現解析用DNAチップを用いて、節間血管の形成異常を示す変異体FSSと野生型の3500遺伝子の発現比較解析を行った。
 肺高血圧症(PH)例での肺動脈の中膜壁を構成する弾性線維と膠原線維の増減および平滑筋細胞の肥大を明らかにした。
 培養血管内皮細胞とEBV感染NK/T細胞との接着、相互作用を共培養系あるいはサイトカインによる前処理を行って明らかにした。
 in vitroの分化誘導モデルで、エピゲノム(DNA/chromatinの修飾、microRNAの発現)の動態についてmicroarrayを用いて解析し、血管・リンパ管誘導因子の発現制御に関わる8種類の遺伝子領域でエピゲノムの変動が確認できた。
・3年目(達成度80~90%)
 イメージング法と免疫組織化学でセロトニン受容体とPARsのサブタイプを同定した。
 脈管形成に関わると予想される転写因子の発現をmorphorinoで制御し、その機能解析を進めた。
 血管細胞と血液細胞を含めた間葉細胞、或いはグリア細胞との細胞相互作用をイメージングするため、トランスジェニック・ゼブラフィッシュの作製に取り掛かっている。
 PHを合併した混合性結合組織病 (mixed connective tissue disease、 MCTD) 患者血清と反応する血管内皮細胞が有する抗原の候補と思われるタンパク質を2Dウエスタンとペプチドマスフィンガープリンティングにより約10個同定した。
 遺伝子導入の手法によりEBV遺伝子発現TあるいはNK細胞クローンの樹立を行った。
 エピゲノム変動が造血幹細胞および骨髄間葉系幹細胞の分化誘導に真に関わっているか、細胞生物学的検証した結果、血管新生に関わる3種類のmicroRNAを特定した。また、このmicroRNAは悪性腫瘍での変動も認められた。

<特に優れている点>
 生体からの摘出脳血管を用いて細胞内情報伝達系を明らかにしようとしており、培養細胞系では得られない部位特異的変動をin vivoに近い状態でとらえている。
 脳底動脈の形成過程の詳細をライブイメージングにより明らかにし、血管形成が遺伝子によって規定されていることを示した。
 二光子顕微鏡システム(レーザースキャニング顕微鏡+非線形光学系装置NLOレーザー)によるTg(fli1:EGFP)y1のライブイメージングの手法と解析能力は世界的に認められている。
 低血圧系の肺動脈の線維化における内皮細胞の役割に着目して原因物質の同定を試みている。
 ウイルス感染という疾病発現の起始点の明らかな病態の解析を通じて、同様の病態を示す原因不明血管炎の病因にアプローチする視点。
 microRNAによる血管新生因子関連蛋白質の発現変動の報告はこれまでにはなく、エピゲノムと腫瘍血管新生あるいは再生臓器での血管新生制御に有効と考えられる。

<問題点とその克服方法>
 臨床画像解析グループとの共同研究が、いまだに不十分である。→臨床で実際に使っている薬剤の反応性を組織レベルで検証する。
 イメージング法にはかなりの人工産物が伴うとともに、新機技法開発(含、トランスジェニック動物作成)には労力と時間をとられる。→複数のイメージング法を組み合せる。
 肺高血圧の原因物質検索作業で、得られた抗原の候補が多数である。→ELISAによる肺高血圧を呈する群と呈さない群を比較する。
 EBV陽性NK細胞株でのRNA干渉による発現抑制も併せて試みているが、現在のところまだ見通しは立っていない。

<研究成果の副次的効果(実用化や特許の申請など研究成果の活用の見通しを含む)>
 細動脈標本のカルシウムイメージング法は、一種のバイオアッセイとして使えるため、物質スクリーニングに使える可能性がある。
 新規トランスジェニック・ゼブラフィッシュ作成は、薬剤のモニター生物として実用化が可能である。
 血管伸長ガイダンス因子の同定は、再生医学に応用可能である。
 MCTD患者におけるPH発症に関連する抗原の発見は、病態の解明や新たな診断法や治療法の創出へとつながる。
 microRNAをツールとした新たな、がん治療・再生医療の開発へつながる。

<今後の研究方針>
 血管張力測定装置の新たな構築あるいは全く新しい測定系(例えばアガロースゲルに平滑筋細胞を培養して収縮測定が出来るようにした系)を検討する。
 血管平滑筋のカルシウム動態を指標として、臨床的に用いられている薬物(例、抗トロンビン剤、セロトニンアゴニストなど)の薬理作用を細動脈レベルで検証する。あわせて、血管収縮・拡張を引き超すと予想されるペプチドの作用を調べる。
 体幹の脈管網形成の分子機構の解明と脳血管関門形成過程のライブイメージングとその分子機構の解明。
 組換えタンパク質を用いた健常者血清とMCTD患者血清、特に病態の違いによる反応性の違いを確認する。
 血管新生に関わるmicroRNAの臨床応用: microRNAのmammalian expression vectorを作成し、臓器あるいは腫瘍細胞特異的なプロモーターを組み込んだ実験を行う。

<今後、期待される研究成果>
 脳血管スパズムの発生機構の解明により、致命的な脳虚血を防止する手だてを見つけることができる。
 脳血管網の形成の全過程のライブイメージングとその分子機構解明により、それを体幹の脈管網形成の分子機構と比較検討することで、脳血管の特異性を示すことができる。
 血管新生に関与したmicroRNAをツールとした新たな、がん治療・再生医療の開発が期待できる。

神経修復部門
<スケジュールに照らした各年度ごとの進捗状況及び達成度>
・1年目(達成度 80%)
 ラット胎仔由来の海馬神経細胞の初代培養法を習得し、海馬神経細胞の低酸素環境下細胞障害機構を探る実験系を確立した。これにより、AアミロイドβとアンギオテンシンⅡの存在が低酸素環境下で神経細胞死を相乗的に増悪させることを明らかにした。
 ベロ毒素II型のレセプターGb3/CD77の中枢神経内の分布・局在を調べたところ、脊髄の血管内皮細胞に発現していたものの、大脳皮質では少ないことが示された。
 神経親和性ブタコロナウイルスがシナプスを超えて、神経細胞だけに感染することを示した。
 薬用人蔘及びアカマツ由来成分のトリテルペノイドが低酸素あるいは酸化刺激によるPC12細胞ならびにC6グリア細胞障害を制御し、細胞保護作用を発揮すると予想したが、その作用は認められなかった。
 アフリカツメガエルの卵母細胞nAChR発現系を確立し。ステロイドとしてデヒドロエピアンドロステロン(DHEA)およびその硫酸体(DHEAS)のニコチン性アセチルコリン受容体に対する作用を検討した。
 脳損傷治癒過程におけるfibronectin mRNAの発現量と発現部位の経時的変化を検討したところ、 受傷後48時間にピークとなり、 血管内皮細胞、astrocyteに発現していることが示された。
 アプリシアの神経細胞を用いて、D1、2型ドパミン受容体刺激で発生するNa+あるいはK+電流応答に対して低分子量Gタンパク質RhoやArf1が関与することを明らかにした。
 ラット海馬スライスのCA1 錐体細胞でAMPA受容体刺激によって引き起こされる電流応答(AMPA応答)が観察できるようになった。
・2年目(達成度 70%)
 ベロ毒素II型の分割投与により、大脳・脳幹における組織傷害が増悪することを確認し、それに各種サイトカインが関与していることがわかった。
 老化促進モデルマウスの記憶・学習能力を行動薬理学的に評価したところ、薬用人蔘は老化によって発症する認知症を抑制した。
 抗高脂血症薬のスタチンが動脈硬化予防効果に加え、血管障害リスクファクターの一つであるカテコールアミンの分泌を抑制することがわかった。
 神経モデルとしての副腎髄質細胞を用いて、DHEAおよびDHEASの長期効果を検討した。
 脳損傷治癒過程におけるuPA mRNAについて発現量と発現部位を見たところ24時間後に血管内皮細胞とastrocyteに発現が増強していることがわかった。
 神経細胞が上皮内に存在する鋤鼻器(フェロモン受容器官)のスライス標本を作製し、鋤鼻感覚細胞の刺激応答の特性を明らかにできる実験系を確立した。
 アプリシア神経細胞における低分子量Gタンパク質RhoやArf1の働きはphospholipase Dを介することがわかった。
 シナプスおよび非シナプスのAMPA受容体応答の比較により、シナプスのAMPA受容体は脱感作しにくい事が明かとなった。
 凍結超薄切片法を改良し、神経組織において安定的に凍結超薄切片を得ることが可能となった。
・3年目(達成度 70%)
 ベロ毒素I型による脳組織障害を、II型によるものと比較検討している。
 引続き、薬用人蔘の加齢による認知症予防効果をin vivoで検討している。
 スタチンのカテコールアミン分泌阻害効果はスタチン濃度と作用時間に依存し、可逆性であることも示された。
 ある種の局所麻酔薬が副腎髄質細胞からのカテコールアミン分泌を刺激することがわかった。
 脳損傷治癒過程における各種サイトカインの発現を見たところ 受傷8時間でIL-1β、 IL-5、 IL-6、 IL-12 p40、 G-CSF、 IFN-γ、 KCの発現が上昇し。 一方、 IL-1α、 IL-12 p70、 TNF-α、 IL 10は受傷後発現が抑えられることがわかった。
 異性の尿に応答する鋤鼻感覚細胞の分布が一様では無いことが明らかになった
 アプリシア神経細胞のArfとPLDによるK+電流応答の調節が受容体の細胞膜への輸送の調節を介して行われることが示唆された。
 脱感作しにくい現象に、グリア細胞は直接的に関与しない事が示された。

<特に優れている点>
 アルツハイマー病におけるアンギオテンシンの増悪効果や病原性大腸菌感染による神経障害機構の解明は、臨床に直結している。
 in vitroとin vivoを組み合せて、薬物の効果を検証した。
 これまで、客観的計測が難しかったフェロモン応答のバイオアッセイ系をつくることができた。
 代謝型受容体もイオンチャネル型受容体等と同様に、細胞膜からのendocytosisとそれに続く膜へのrecyclingにより調節される可能性を示した。
 受容体の機能解析には、シナプスという構造を維持しているかどうか、大きな意味を持ってくることを示した。

<問題点とその克服方法>
 実験標本系の確立に手間取り、あわせて研究担当者の退職・転出が相次いだ。→研究テーマと実験材料を変更したが、結果(論文数)が出るのには時間がかかる。
 受傷脳組織としてのヒトの材料が、統計比較するには例数が少ない。→今後、例数を増やす。
 鋤鼻感覚細胞の興奮が、脳にどのように伝わるか不明である。→脳と鋤鼻細胞の共培養系で実験を進める。
 組織形態を保ったままの標本でシナプス機能評価するには電気生理手法だけでは不足である。→バイオイメージング技法に長けた研究者をPDとして採用した。

<研究成果の副次的効果(実用化や特許の申請など研究成果の活用の見通しを含む)>
 脳機能障害を抑える可能性を示した薬用人参やスタチンが、抗認知症薬として意味を持ってくる。
 受傷後に変動するサイトカイン類を調べることで、受傷時刻を逆算できる可能性があることから、法医学的応用へ結びつく。

<今後の研究方針>
 引続き、抗認知症薬の可能性がある物資の探索を続ける。
 脳受傷後の経時変化を見る仕事に、リン酸化タンパク等の細胞内シグナル伝達機構を検討対象として加え、 その法医学的有用性について検討する。 また、 サンプルが採取でき次第、 ヒト脳組織を用いた検討に移行する。
 鋤鼻感覚細胞と標的中枢神経細胞である副嗅球の神経細胞を生体から分離・共培養し、相互関係を観察する系を確立する。また、尿中のフェロモンを分離同定を試みる。
 Endocytosisとrecyclingによる代謝型受容体の調節機構が温血動物でも行われているか明らかにする。
 シナプス形成に与かる低分子Gタンパク質の意義を温血動物の神経細胞で解明するとともに、シナプスという構造を保つことが、受容体機能にどのような影響を及ぼすか、分子生物学的に検討する。
 凍結超薄切片法と免疫電顕を組み合せ、各種物質の細胞内局在を同定する。

<今後、期待される研究成果>
 薬用人参の成分をもとにして、抗認知症薬の開発が期待できる。
 鋤鼻器の感覚上皮細胞は、再生する中枢神経系の細胞の一つであり、神経細胞の再生メカニズム解明のモデルになる可能性がある。
 フェロモン物質を同定することで、性行動の分子生物学的解析が期待できる。




三部門を通じて
<特に優れている点>
業績面
1. 超高磁場MRI装置により脳機能情報の飛躍的な質の向上を可能にしたこと(例:神経メラニンの画像化 文献番号 51、脳内温度等精密計測 文献番号 44, 54)。
2. 遺伝子改変ゼブラフィッシュを使った二光子顕微鏡による脈管(動脈・静脈・リンパ管)の形成過程を観察し、脈管構築に関して新概念を確立したこと (文献番号 59, 80, 84)。
3. 組織内血流動態に大きな影響を与える細動脈の収縮・拡張応答を測定する方法を確立したこと(文献番号61, 63, 83)。

運営面
1. 超高磁場MRI装置の維持と性能向上に重点配分した。
2. 講座均等割の予算配分を前提としなかった。
3. プロジェクトが各講座(研究者)の興味を主体とした上で基礎医学講座・臨床医学講座を横断するような形で組まれている。
ともすれば、複数講座が寄り集まった研究は総花的になりやすいが、毎月定例で開催された「プロジェクト推進委員会」で各研究者を有機的に結びつけることができたのが活性化につながった。研究進捗状況の詳細を批判も交えてディスカッションし、状況に応じてプロジェクト内容(および構成メンバーの編成)を柔軟に変えることが可能になったため、研究成果と予算の傾斜配分において良好な結果を得た。
研究成果におけるメリット:超高磁場MRI装置による画像診断は、臨床複数講座の緊密な連携により、質の高い画像による、多数の臨床症例の解析が可能になった。結果として、当初、予定していた脳血管障害にとどまらず、鬱病や神経変性疾患まで画像評価が可能となった。血管標本による収縮・拡張の研究も、従来の電気生理実験手法がうまくいかなくなった時点で、バイオイメージング法に切り替えることができた。また、PDとして採用されたうち2名の研究は、その学際的な内容が評価され、JSPSの科学研究費補助金を獲得するに至った。
予算配分に関する合意:予算の重点配分は、論文数などで機械的におこなうわけでなく、研究実務担当者が、研究の進捗状況・将来性・緊急性・重要性を話し合った上で決めている。そのため、ハイテクリサーチ参加者の合意のもとで、中長期的な観点から予算を配することが可能となった。

<問題点とその克服方法>
 当初予定していた、実験動物モデルを使ったイメージング、血管条片標本を用いた生理実験および脳虚血モデルにおける細胞生物学的な検討ができなかった。これは、機器の不調、実験材料の変更あるいは実験担当者の休職・退職に伴うものである。加えて、レーザー顕微鏡のレーザー故障など、実験装置に不測の故障が頻発し、実験ができなくなるおそれが出た。
 人的あるいは物的な故障による実験計画中断を防ぐため、いくつかの対策を講じた。
1) 研究担当者が継続した研究ができなくなった場合(例、妊娠・出産・育児による休職)は、仕事を引き継ぐPDを採用した。
2) 中央経費から修理費を出すとともに、手厚い保守契約を結んだ。
3) プロジェクト推進委員会において実験計画と実験方法の見直しをおこない、新規プロジェクトへ研究資源を振り替えた。
4) 講座の枠組みを超えて、自由に研究者が行き来きする研究環境を構築した。

<プロジェクトの評価体制(自己評価、外部評価を含む)>
毎月、定例のプロジェクト推進員会を開催し、研究進捗状況を各委員が報告し、その妥当性(研究計画が適正か、無駄は無いか、等)を検証している。年度ごとに各委員から提出された計画の達成度に応じて、次年度の研究予算配分をおこなうこととした。また、過去の実績にとらわれること無く将来性を加味した重点配分もおこなっている。論文発表は原則的に英文でPubMedやMedlineに掲載される雑誌を目指すようにしたが、研究領域ごとにImpact Factor (IF)が著しく異なるために、IFをもとにした業績評価はしなかった。平成18年度は公開シンポジウムを開催し、学外から専門家を招聘して、研究成果を披露し、意見交換をおこなった。また、研究成果とプロジェクト推進委員会議事録をホームページで公開した。
研究成果:  http://anatomy.iwate-med.ac.jp/Hitech/TYUKANSEIKA.htm 
運営議事録: http://anatomy.iwate-med.ac.jp/Hitech/Project_Meeting.htm