2. 超高磁場MRIとPETによる生体組織イメージングとその臨床応用


研究概要

○研究分野
神経画像診断学およびその臨床応用

○研究内容
超高磁場MRIおよびPETを用い、神経系の微細構造・脳機能(高次脳機能、脳温、pH、アミノ酸含有量、神経受容体)・脳灌流を画像化し、これにより脳血管障害発症機序およびその修復過程解明に取り組む。
 微細構造の画像化は、まず動物実験においてその撮像法を確立する。これにより臨床的に新知見が認められた場合などに、常に動物実験レベルでの検討を継続的に行うことができる。臨床的には脳血管障害・アルツハイマー病・脳腫瘍症例においてこれまで画像化困難であった脳基底核構造、脳細動脈等の詳細な検討を行う。脳機能の画像化においては、高次脳機能、大脳白質神経線維評価法、非侵襲的脳温測定法、脳内pH測定法、脳内微量アミノ酸定量法、神経受容体画像法の確立を行う。これらは正常ボランティアで手法を確立した後、症例に応用する。対象症例としては、アルツハイマー病・慢性脳虚血・脳腫瘍・幻覚妄想型精神障害・肝性脳症症例を予定している。また適宜動物実験にて妥当性を評価する。脳灌流画像法は、一般的な造影剤投与法に加え、造影剤を使用しない完全非侵襲的脳灌流画像法を確立する。さらにこれらの定量的評価法を標準化することにより、経時的評価・症例間評価が可能になると考えている。

○達成目標
1年目に動物実験レベルの撮像法は確立する。動物実験での妥当性評価は5年間通して行う必要があり、最も早期に取り組む。平行して新規コイル作成・プロトコールの最適化を正常ボランティア・一部症例にて行う。3年目までに正常ボランティア100例の撮像を行い、正常値の決定を行う。各症例は3年目までに脳血管障害150例、アルツハイマー病50例、脳腫瘍100例、精神障害25例を予定する。5年目までに経時的評価を重ねることにより、修復過程の解明に取り組む。症例は原則1年毎に継続的に検討する。5年目までに、疾患の再発・新規症状の発現が約10%に見られると考えられ、これらの症例を検討することにより、発症前診断法の確立、発症機序解明に寄与しうると考えられる。

○期待される効果(社会への貢献度など)
本研究において発症前診断、早期診断が可能になった場合、いわゆる「寝たきり状態」に至る症例を減少せしめ、もって医療費抑制効果があるものと考えられる。また精神疾患の予防医学、高次脳機能低下抑制法などはほとんど研究されておらず、新たな視点を提供することになる。さらに本研究で確立する脳温、微量アミノ酸の定量評価は脳疾患の治療効果判定、モニタリング等に応用可能である。

○学内の他の研究機関等との協力体制
本プロジェクトでは、サイクロトロンセンターと超高磁場MRI研究施設が研究拠点となっている。また、症例収集にあたっては、附属病院の各診療部門のサポートを受ける。なお、学外の施設とおこなってきた共同研究も継続する(動物実験:東京大学・岩手大学、京都大学森林研究所、ソフトウェア:岩手県立大学、患者症例:東北大学)。

○研究成果の公表の計画
磁気共鳴医学会、神経学会、国際生物学的精神医学会、International Society of Magnetic Resonance in Medicine等で発表する。Neurology, Magnetic Resonance in Medicine, American Journal of Neuroradiology, Biological psychiatry, 等に投稿する。また、隔年の公開シンポジウムを通じて成果発表するとともに、評価を受ける。

年度別の具体的研究内容

平成16年度

肝性脳症モデルラット、慢性脳虚血モデルラットの作成、高分解能型受信コイルの作成をおこなう。同時に3TMRI用高解像度3次元顕微鏡画像法を確立する。PETにおいては自動コリン合成システムを確立する。16年度後半からは正常ボランティアおよび一部症例の撮像を開始し、撮像プロトコールの最適化を図る。患者症例においては、データベースを作成し、画像所見変化と症状との相関を検討する上での基礎データとする。本年度までに脳血管性障害30例、認知機能障害5例、脳腫瘍20例、精神疾患5例の撮像を予定する。

平成17年度

正常ボランティア50例、脳血管障害60例、認知機能障害10例、脳腫瘍40例、精神疾患10例、アルツハイマー病25例、肝性脳症10例、動物実験50例の撮像を予定する。各疾患ごとに特異的撮像法を開発し、これを経時的に施行する。脳血管障害では脳灌流異常と脳卒中発症リスクとの検討を行う必要があるため、定量的脳灌流画像を取得する。認知機能障害・アルツハイマー病では大脳白質神経線維障害を画像化する必要があるため、拡散テンソル画像による定量評価を行う。精神疾患においては画像所見に加え、臨床心理学的検査を施行し比較する。脳温、脳pHの定量評価手法も本年度内に確立する。脳腫瘍、肝性脳症症例では微量アミノ酸の定量および代謝動態をMR spectroscopy およびPETを用いて検討する。

平成18年度

引き続き17年度と同程度の新規ボランティアおよび症例の撮像を行う予定である。本年度までに撮像し得た症例は引き続き経過観察を最低2年間施行する。また、脳機能画像・脳温・脳pH画像などは本年度からは3次元解析が可能な条件での撮像を開始する。経過観察においては引き続き施行する2次元画像を利用するが、3次元解析を加えることにより、より信号雑音比で有利になると考えられ、またより微細な構造を把握することが可能となる。また、新規知見を確認するための動物実験を繰り返し行う。また症例で得られたデータを利用することにより、これまで困難であった、小動物での脳機能画像取得を試みる。

平成19年度

平成1618年度に施行した症例の追跡評価を行うことで、個々の疾患における転帰が明らかになる。この結果と画像所見を比較することにより、再発危険因子が明らかになる。予想される再発危険因子としては脳循環そのものの低下に加え、その予備能の低下、微小脳循環の低下、大脳白質神経そのものの障害、有害アミノ酸の上昇などを想定している。また、本年度までの研究結果から脳血管障害発症機序、発症リスクおよびその臨床的過程が明らかになると考えている。新規正常ボランティア、症例の撮像、動物実験は引き続き行う。

平成20年度

本年度は脳血管障害後の回復過程の解明を中心に研究を進める。また、臨床例での検討からは、発症前診断、発症早期診断法の確立を行う。そのために患者症例においては、個々の疾患で増悪または改善した症例を中心に撮像を行う。高次脳機能、大脳白質神経障害、脳温、脳pH、脳代謝動態、脳幹流動体を全て定量的に評価可能なので、脳機能回復過程における各因子の経時的動態が個々の症例ごとに明らかになる。また、本年度までに新たに神経症状を呈した症例を検討することにより、脳卒中発症予測における危険因子が明らかになる。