1. 脳循環制御機構の解明と臓器・器官特異的な血管発生機構の解明


研究概要
○研究分野
研究代表者は、生理学が専門であるが、統括する参加スタッフは基礎医学生理系〜病理系、および臨床医学系の多岐にわたっている。それぞれの得意とする分子生物学、機能形態学、電気生理学、細胞生物学などの研究手法で、本プロジェクトに参画する。

○研究内容
脳組織に分布する血管は、その収縮機構や発生過程、病変に関して不明な点が多い。他の臓器に分布する血管と異なった、脳血管特有の性質を明らかにするのが、本プロジェクトの主目的である。具体的には、1) 脳出血後に見られる脳血管攣縮機構の解明、2) ゼブラフィッシュ胚を用いた脳血管発生機構の解明と、3) 骨髄幹細胞を用いた血管再生を試みる。また、4) 血管壁の重要な構成要素である結合組織成分を調べる。あわせて、5) EBウイルスにより引き起こされる血管炎の病態を解明する。

○達成目標
3年目まで:おもに研究のベースとなる基礎実験に主眼をおき、成果発表する(国際誌10編を目標)。
脳血管平滑筋標本を用いて種々のagonistによる収縮に関与する細胞内機構を明らかにする。脳血管発生機構の特異性を、実験動物レベルで検討する。血管結合組織の変化を画像解析で定量化する。また、EBV陽性TないしNK細胞と血管構成細胞との相互作用を明らかにする。
5年目まで:臨床応用を視野に入れ、in vivoの仕事をin vitroへ、あるいはin vitroの所見をin vivoで検証する作業をおこない、成果発表する(国際誌10編を目標)。
種々の受容体による収縮の増強や抑制に関わる細胞内分子の、相互のシグナリング機構を明らかにする。あわせて、この機構が高血圧性の病変をきたした血管で、どのような変容をきたしているか検討する。血管発生機構と再生メカニズムに関与する遺伝子を検索する。また、血管炎におけるEBVの責任遺伝子を明らかにする。

○期待される効果(社会への貢献度など)
生活習慣病の多くが、血管病変を伴っている。脳血管収縮及びその調節の細胞内機構が明らかになれば、致死的脳血管攣縮予防と治療につながるであろう。この成果は、プロジェクト2の非観血的画像診断法で検証することも可能である。また、血管形成過程の解明は、脳動脈奇形の病因解明の基礎となる。

○学内の他の研究機関等との協力体制
本学の電子顕微鏡室、DNA解析室、超高磁場MRI研究施設、サイクロトロンセンター、アイソトープセンターおよび動物実験センターがサポートにあたる。また、先端歯科医療センター(歯学部)とも機器利用の点で協力をあおぐ。なお、米国NIHなどの国内外の研究施設とおこなってきた共同研究も継続する。

○研究成果の公表の計画
プロジェクト構成メンバーは、3年目と5年目に国際雑誌に公表ならびに国際学会に発表する。隔年に斯界のトップ研究者を招いてハイテクリサーチシンポジウムを開催し、その際に成果発表とディスカッションをおこない、講評を受ける。


年度別の具体的研究内容

 

 

平成16年度

初年度はこれまでの実績を踏まえた実験系の発展、あるいは新たな実験系の確立に主眼をおく。

1.          ラット脳血管標本(中大脳動脈〜細動脈〜終末細動脈)を用いて、各種刺激物を投与した場合に発生する収縮と細胞内カルシウムイオン濃度変動を観察し、受容体の型を薬理学的に同定する。

2.          遺伝子工学的に血管発生に関与する遺伝子を強制発現あるいはノックアウトしたゼブラフィッシュを用いて、血管形成のバイオイメージングをおこなう。

3.          マウスからABC (ATP-binding cassette) トランスポーターを強発現している骨髄幹細胞を同定分離する。

4.          弾性動脈の血管内皮、弾性線維と平滑筋線維、膠原線維、その他プロテオグリカンなどの状態を画像解析装置を用いて計測する。

5.          BV感染NK/T細胞での接着因子発現をリアルタイムRT-PCRおよびフローサイトメトリーで検討する。

 

 

平成17年度

本年度は、確立した実験系をもとに、分子生物学的なアプローチで細胞内の機構に踏み込んだ実験をおこなう。

1.          脳血管平滑筋収縮に関わるシグナル蛋白について、収縮の発生機構に働いているものかあるいは収縮の増強機構に働いているシグナルかを明らかにする。また、受容体の型を分子生物学的に同定する。

2.          ゼブラフィッシュの血管発生過程を、脳と体節の血管とわけて解析し、脳血管発生の特異性を明らかにする。

3.          GFP (Green Fluorescent Protein) マウス由来の骨髄幹細胞を、放射線照射した障害モデルマウスに骨髄移植する。次いで組織障害後の修復過程で移植幹細胞由来の細胞がどのように移動するか観察する。

4.          高血圧症患者の剖検例から弾性動脈の各成分の割合やアポトーシスに陥った細胞を組織学的に定量する。

5.          培養血管内皮細胞とEBV感染NK/T細胞との接着、相互作用を共培養系で明らかにする。

 

 

平成18年度

更にデータを積み上げるとともに、成果を公表し(論文・学会)、プロジェクトの妥当性と将来性を相互評価で検討する。また、新たなシーズが生まれてきた場合は、他のプロジェクトとともに組織改編を随時おこなうこととする。

1.          収縮の増強に複数のシグナル蛋白が関わっていることが明らかになった場合、それらのシグナル蛋白が同一の経路でcascadeを形成するか、あるいは全く異なるシグナル系列なのかについて明らかにする。

2.          ゼブラフィッシュの脳血管発生に特異的な遺伝子発現があるかどうか検索する。

3.          骨髄幹細胞の体外増幅と、血管形成における分化誘導法を開発する。

4.          高血圧患者で平滑筋に高度に発現しているといわれるRho-kinasa の動態、発現について、ヒトの組織を用いて蛋白の証明とin situ hybridization によるmRNAの症例を検討する。

5.          遺伝子導入の手法によりEBV遺伝子発現TあるいはNK細胞クローンの樹立を行う。

 

 

平成19年度

In vivoで得られたデータをIn vitroの実験系で分子生物学的に検証するとともに、臨床医学への応用を模索する。

1.          脳血管から単離した平滑筋を初代培養して培養ゲル中で配列をそろえて培養した平滑筋標本を用いて、各種阻害剤の投与や阻害蛋白の遺伝子導入によりより詳細な細胞内機構を明らかにする。また、これまでのin vivoの実験系で示された痙攀誘発機構が培養系でも維持されるような実験モデルを作製する。

2.          ゼブラフィッシュの脳血管発生に特異的な遺伝子発現を哺乳動物でも検証する。

3.          骨髄幹細胞に由来する細胞が、脳血管の形成に与かるかどうか検討し、その細胞がゼブラフィッシュの実験で得られた遺伝子を発現しているかどうか明らかにする。

4.          弾性動脈の中膜におよぼす影響が如何なる因子、機序によって引き起こされるについて、中膜を構成する細胞の細胞内蛋白あるいはテロメアなどとの関係で明らかにしていく。

5.          樹立したEBV遺伝子発現クローンでの接着因子およびサイトカイン発現の変動を検討する。

 

 

平成20年度

プロジェクト参加者は各自研究成果を公表(論文・学会)するとともに、発展的な問題提起となる実験を開始する。

1.          前年度とは逆に、培養平滑筋モデルで得られた知見を、組織形態を保ったままの標本系で検証する。

2.          ニワトリ胚やラット胎子の血管発生のバイオイメージングを試みる。

3.          体外増幅した骨髄幹細胞が、損傷臓器における修復に有用かどうか検証する。

4.          加齢および高血圧症の弾性動脈の壁の変化とその機序の全体像を明らかにする。

5.          EBVの影響が脳血管と他の組織の血管で相違があるかどうか検討する。