先端医療研究センター 平成11年度〜15年度研究成果概要

急激な高齢化に伴う神経系疾患の増大に対処するために設立された本センターは,病態解明部門(生理部門)治療法検討部門(病理部門)神経再生・変性研究部門(画像解析部門)の3部門にわかれて研究をおこなってきた。

病態解明部門(生理部門)は,中枢神経におけるシナプス伝達の長期増強・抑制作用発現に関わる細胞内シグナル伝達機構を解明する部門として設立されたが,センター設立後に細胞内シグナル伝達機構を研究するスタッフが,同部門に参画するようになった。各自がこれまでおこなってきた細胞内シグナルあるいは神経系の生理機能に関する研究を継続しつつ,共同研究の芽を育むことができた。その成果は,ヒト脳の形態学的な特徴や電気生理学的な研究によるシナプス伝達の細胞内シグナル機構の解明のように,生理的な脳の形態と機能を解析したものに加え,脳を養う脳血管平滑筋の性状を研究したものや,信号伝達物質(ATP,ステロイド)に対する神経細胞の反応性を検討したグループもある。研究を進めるなかで,各自の実験手法やテーマに関して意見交換をおこない,複数講座にまたがる研究プロジェクトを構成できた(病態解明部門研究概要参照)。

治療法検討部門(病理部門)は,脳血管障害後の組織修復に関する仕事をおこなった。加齢を背景とする神経変性過程を研究するグループは,各自の研究手法を用いて,低酸素刺激によるNicotinic Ach受容体の増加や変性疾患患者のフリーラディカル増加,あるいは神経軸索再生にかかわるマーカーの検索などを研究した。脳(血管)障害後の炎症にトロンビン,CRF familyanandamideが関与することも明らかにできた。また,細菌毒素やウイルスによる神経症状発症機構を研究し,その早期診断や治療に関わる成果も得られた。この部門でも複数講座にまたがる研究プロジェクトを構成した(治療法検討部門研究概要参照)

神経再生・変性研究部門(画像解析部門)は,当時は実験段階であった超高磁場MRIを新規購入し,その可能性を検討した部門である。超高磁場MRI研究施設はサイクロトロンセンターと隣接しており,そこに設置されたPETとあわせて,脳の画像解析の研究を進めてきた。その結果,従来の装置では描出困難であった大脳基底核の病変を明らかにできただけでなく,機能的MRIMRスペクトロスコピーによる機能解析の可能性を証明できた。

以上3部門で研究成果を着実に積み上げてきたが,とりわけ国内に数台しか導入されていない超高磁場MRI装置により,症状が顕在化する前に脳血管障害がとらえられるようになったのは特筆に値する。今後,併設したPETとあわせて,脳機能の画像解析の研究を更に押しすすめることにより,脳血管障害の発症前診断と予後予測が確実になされると期待される。更に,このような臨床研究に加え,脳循環を特徴づける血流制御機構や,脳血管障害後の神経組織の修復まで視野に入れた分子生物学的な研究が強く望まれる。


平成11年〜15年度のプロジェクト運営状況

 

岩手医科大学医学部先端医療研究センターは,病態解明部門(生理部門),治療法検討部門(病理部門),神経再生・変性研究部門(画像解析部門)の3部門から構成されているが,部門あるいは講座間の交流を図るため,毎月定例で実験実務者が集合して各部門の到達度の報告をおこない,情報交換に努めてきた。これは各部門のインセンティブを高めるとともに,新たな共同研究の芽を育む場ともなった。

·        病態解明部門生理部門):神経組織の細胞内シグナル伝達機構の研究

·        治療法検討部門(病理部門):脳血管障害後の組織修復に関するサイトカイン,増殖因子の関与,グリア細胞白質内移植による修復的治療の研究

·        神経再生・変性研究部門(画像解析部門):超高磁場MRIPET等を用いた神経系の加齢,変性,再生に関する研究

 

 






今後の展望・予定

 

生体内イメージング装置(超高磁場MRIPETを中心に据えて,脳血管障害とその修復機構を明らかにする。

·  病態解明部門(生理部門)→脳循環制御機構解明部門

脳循環制御機構の特異性と,血管発生機構を分子生物学的に研究する

·  神経再生・変性研究部門(画像解析部門)→画像診断評価部門

超高磁MRIPETを利用して,脳血管障害の発症前診断と治療評価をおこなう

·  治療法検討部門病理部門)→病態生理解明部門

神経損傷時の変化を,分子形態学的および機能的に調べる

 

角丸四角形: 実験動物(含,老化時あるいは発生初期)を使って,脳組織内の循環制御機構を明らかにする研究をすすめつつ,実際の臨床患者においてどのような血流動態変化が生じているか,検証する。その結果を踏まえて,神経組織の損傷時に細胞内で起きている変化を,分子生物学的に明らかにする。また,得られた結果はフィードバックされ,あらたな研究テーマを醸成する糧とする。
生理機能解析(実験)→臨床データとの突き合わせ(臨床)→病態生理の解明(実験)という流れで本センターを運営し,脳組織内血流動態の研究を推進していく。各部門のスタッフは,従来の生理系・病理系・臨床外科系・臨床内科系という枠組みを乗り越えて構成される。あわせてポスドク制度を導入し各部門に配置する。

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超高磁場MRI研究施設 学外利用者一覧

 

年度

名前

所属

H13

松永悟

東京大学農学生命科学

助手

H13

奥寺利男

秋田県立脳血管研究センター

研究局長

H13

土井章男

岩県立大学ソフトウエア情報学部

教授

H14

黒田清士

国立療養所盛岡病院

院長

H14

土井章男

岩県立大学ソフトウエア情報学部

教授

H14

辻本博

広南病院脳神経外科

医師

H14

黒田慶子

森林総合研究所樹病研究室

研究室長

H14

坂田和実

岩手大学福祉工学部

講師

H14

小林弘一朗

岩手大学福祉工学部

講師

H14

松永悟

東京大学農学生命科学

助手

H14

大原浩市

国立療養所南花巻病院

病理研究室長

H15

及川浩

岩手県立福岡病院放射線科

 

H15

土井章男

岩県立大学ソフトウエア情報学部

教授

H15

辻本博

広南病院脳神経外科

医師

H15

隈部俊宏

東北大学医学部脳神経外科学

助手

H15

黒田慶子

森林総合研究所樹病研究室

研究室長

H15

水城まさみ

国立療養所盛岡病院

臨床研究部長

H15

黒田清士

国立療養所盛岡病院

院長

H15

坂田和実

岩手大学福祉工学部

講師

H15

小林弘一朗

岩手大学福祉工学部

講師

H15

松永悟

東京大学農学生命科学

助手

H15

葛岡巧弥子

東京大学農学生命科学

大学院

 

のべ 19件 22名

 

 

共同利用施設としての総括

 

·   超高磁場MRI装置の立ち上げに時間がとられたせいで,平成11年度〜12年度は共同利用者はゼロであったが,H13年度以降は年ごとに利用者が増加している。

 

·   今のところ県外の利用者が少ないが,これは本施設が共同利用可能である旨のパブリシティーがたりないせいであると思われる。